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大阪高等裁判所 昭和47年(行コ)9号 判決

京都市上京区大宮通元誓願寺下る北之御門町五六三番地

控訴人

仲直三郎

右訴訟代理人弁護士

家藤信吉

家藤信正

京都市上京区一条通西洞院東入る

被控訴人

上京税務署長

的井弘

右指定代理人検事

細井淳久

検事 高須要子

法務事務官 三上耕一

大蔵事務官 吉田周一

大蔵事務官 米川盛夫

大蔵事務官 石室健次

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和三八年二月二〇日付でなした控訴人の昭和三四年ないし三六年分所得税の各総所得額を金八、一三九、四二〇円、金五、四九二、三八七円、金五、三五四、四〇七円と更正した処分のうち、それぞれ金七、三六三、一一二円、金三、八七八、七一三円、金一、五三四、六〇五円を越える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人)

一1、原判決別表五「借入金の支払利息の一部」の明細表中(1)富士銀行西陣支店の昭和三四年分に「三四九、三五八円」とあるは「三四七、四二七円」の違算であり、(2)第一銀行西陣支店の昭和三五年分に「一九〇、六四五円」とあるは「一二八、二七五円」の違算である。

2、被控訴人主張の両建分借入金のうち別表一〇記載の分は借入金を現実に現金で返済し、その後資金が必要となつて、預金を担保に現実に借り入れたものまたは現実に現金を借り入れて使用し、一、二日後定期預金にしたものであるから、即時全額両建ではない。

右1、2につき、控訴人は原審で被控訴人の主張を認めたが、当審で訂正するものである。右訂正は自白の撤回に当らない。かりに自白の撤回に当るとしても係争事件の発生が古いことであり、控訴人は専門家でないため争点がつかめないまま長期間を経過し、帳簿の保存、調査が充分でなかつたことによるもので、右自白は真実に反し、錯誤に基づくから許さるべきである。

3、したがつて、所得の種類金額についての控訴人と被控訴人の主張額を対比すれば別表一一記載のとおりであり、同表の控訴人の第二次主張額とは、前記2の異時両建分を除外した場合のものである。控訴人の所得は申告額が過少であつたとしても、同表中の「控訴人の第2次主張額」を超えるものではない。

二1、本件両建借入は銀行のしつような勧誘によるものであり、控訴人が租税回避の手段としてなしたものではない。すなわち、控訴人にとつては毎年一二月末の決算期が到来し、所得が確定してからでないと両建をした方が、しないより得かどうかの判断はできない訳である。しかるに本件両建取引の発生は月末か銀行の決算期である三月および九月に集中している。これは銀行が行う預金獲得競争の結果に外ならない。したがつて、控訴人は右時点で損得を判断して自主的に両建取引をすることが不可能または著しく困難であつたというべきである。

2、控訴人は、売上の一〇〇パーセントを受取手形による為手形割引を多くする必要があつたので割引高(枠)を増加させる目的で本件両建取引をしたのであり、このことは本件両建取引以前に割引高(枠)を増加したことが一度もなかつたことから明らかである。

被控訴人主張の債務割合は、銀行取引でいう預貸率に該当するが、右預貸率においては客観的要素として当時の金融市場の情勢が、主観的要素として割引に出す手形の良否が考慮されるべきところ、被控訴人主張の右債務割合では右要素を考慮せず抽象的な計算のみで本件両建の不必要性を理由づけようとする点で不当である。また右債務割合はその基礎たる数額、基準日のとり方、計算方法に誤りがあるから、右債務割合をもつて本件両建が割引枠の拡大に寄与していないとか担保性を有しないと速断することはできない。(ただし、控訴人は右債務割合につき、原案でした自白が真実に合致せずかつ錯誤に基づくものであるとの主張はしない。)本件両建の実態をみると、前記のように控訴人が銀行の決算期に協力した類型のほかに、手形割引高が一定額に達した時両建し、以後これによつて割引高(枠)が増大した類型のものとに分けられる。さらに、本件両建取引の結果表面利息より実質利息が真の利息となる点からみても、本件両建預金は企業にとつて必要不可欠のものと解すべきである。

(被控訴人)

一1、控訴人主張一1のうち(2)の第一銀行西陣支店の昭和三五年分に「一九〇、六四五円」とあるは「一二八、二七五円」の違算であることは認め、その余の部分は否認する。

2、控訴人主張一2は否認する。控訴人の主張は自白の撤回であるから許すべきでない。本件両建分借入金の発生日と両建預金の発生日に一日、二日の差異があつても、事務手続上、各取引が土曜日と月曜日にまたがり時間的なずれが生ずる場合があり、このような場合は、実質的に両建借入金および両建預金は継続しているとみるのが相当であり、社会通念上いわゆる即時両建という本来の性格を失うものではない。

(一)、東海銀行西陣支店の昭和三六年一月九日の両建分借入金二〇〇万円についてみると、控訴人は同月七日(土曜日)に五〇〇万円の定期預金を設定し、同月九日(月曜日)に二〇〇万円を借り入れ、同月一三日に三〇〇万円を借り入れているので、右五〇〇万円は直接控訴人の使用し得る資金を得ていないこと明らかであり、本来は五〇〇万円全部について両建預金または両建借入金として否認すべき支払利息を計算すべきであるが、被控訴人はそのうち土曜日、月曜日と続く両建分二〇〇万円のみにつき否認するにとどめたにすぎない。

(二)(1)、富士銀行西陣支店の昭和三四年一〇月一日の両建分借入金七〇〇万円についてみると、控訴人は同年九月三〇日に両建借入金と両建預金とを相殺して一〇月一日に七〇〇万円の借入のみが発生したという訳ではなく、本件においては、使用しうる資金の生じないことは右と同様であり、両建預金とともに両建借入金として継続していると解すべきである。

(2)、同銀行の昭和三六年九月一日の金五〇〇万円と金二〇〇万円の新規借入の事実はない。右は従来の借入金七〇〇万円を計算上分割したにすぎない。

(三)(1)、京都銀行西陣支店の昭和三四年八月二一日の両建分借入金五〇〇万円についてみると、控訴人は同月二〇日に五〇〇万円を預金し、同月二一日に五〇〇万円を借り入れているが、実質上即時両建と差異はない。

(2)、同銀行の昭和三五年九月三日の借入金三〇〇万円は同日預金し、また同月一二日の借入金二〇〇万円は同日預金している。したがつて、いずれも即時両建となつている。(甲第六号証の一)

(四)、第一銀行西陣支店の昭和三五年一一月二八日の両建分借入金一〇〇万円についてみると、控訴人は同月二六日(土曜日)に二〇〇万円を定期預金し、同月二八日(月曜日)に一〇〇万円を借り入れているので、右一〇〇万円は直接控訴人の使用しうる資金を得ていない。したがつて土曜日、月曜日と続く右取引は実質上即時両建と変らない。

3、控訴人主張一3は争う。

二、本件両建分借入金は、借入と同時にその全額を定期預金としたもの、または実質上これと同一視できるものであるから、控訴人の事業上必要な資金として直接に利用されていないことは明らかであり、かつ、債務割合からみて、係争年分の借入額および手形割引高を現実に増加させるか借入枠および手形割引枠を拡げる等の担保機能も果していない。控訴人主張の預貸率と被控訴人主張の債務割合とは別個の概念である。

また控訴人主張の実質利益の点は、本件両建取引が企業にとつて必要不可欠な場合であることを前提とするものにすぎない。さらに、本件両建は銀行のしつような勧誘によるものではなく、控訴人に租税回避の目的があつたことは明らかである。

したがつて、本件両建分借入に対する支払利息が必要経費であるとは到底いえない。

(証拠関係)

一、控訴人

1、甲第一〇号証の一ないし五、第一一号証、第一二号証、第一三号証の一ないし二五、第一四号証の一ないし二〇、第一五号証の一ないし一一、第一六号証の一ないし一三、第一七号証の一ないし一九

2、当審証人西脇恒次郎、同仲敏夫

3、乙第四号証の一ないし三の成立は認める。

二、被控訴人

1、乙第四号証の一ないし三。

2、甲第一二号証の成立は認め、その余の成立は不知である。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に訂正付加するほか、原判決理由記載の判断説示と同一であるからこれを引用する。

一1、原判決添付別表五の明細表中、第一銀行西陣支店の昭和三五年分「一九〇、六四五円」が「一二八、二七五円」の違算であることは当事者間に争いがないからその旨訂正する。

右訂正に伴い、同表の昭和三五年分の合計「一、八六一、八五五円」とあるを「一、七九九、四八五円」に訂正し、別表四の昭和三五年分(一)、(三)各「一、八六一、八五五円」とあるを「一、七九九、四八五円」に、別表三の昭和三五年分(二)「四三五、七三一、九八九円」とあるを「四三五、七九四、三五九円」に同(三)「五、二〇七、五六七円」とあるを「五、一四五、一九七円」に、別表二の昭和三五年分(四)「五、二〇七、五六七円」とあるを「五、一四五、一九七円」に、同(五)「五、七四〇、五六八円」とあるを「五、六七八、一九八円」に、別表七昭和三五年分(一)「二、八〇四、八一〇円」とあるを「二、七六三、八九〇円」に、同(三)「一、二〇一、二八〇円」とあるを「一、一六〇、三六〇円」に、同(四)「一、八六一、八五五円」とあるを「一、七九九、四八五円」に、同(六)「三四七、六四二円」とあるを「二八五、二七二円」に、同(七)「八五三、六三八円」とあるを「八七五、〇八八円」にそれぞれ訂正する。

2、控訴人主張の前記別表五の明細書中富士銀行西陣支店の昭和三四年度分の違算については、これを認めるに足りる証拠はない。

二、控訴人は、原審で本件両建預金の金額および両建分借入金の金額につき被控訴人の主張どおり即時両建であることを認めたにかかわらず、その後当審で別表一〇記載の借入分につきこれを否定したが、右は自白の撤回に当る。しかしながら、右自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づいたものであることはこれを認めるに足りる証拠がないから右自白の撤回は許すことができない。

三1、原判決一九枚目表八行目「思われない。」の次に「さらに控訴人は前記債務割合の検討に際し、いわゆる銀行の預貸率で考慮されるべき金融市場の情勢や割引の対象となる手形の良否等がしんしやくされていないと主張するが、成立に争いのない乙第四号証の一ないし三に徴しても、本件係争年度中金融情勢が特段に逼迫したものとは認められないし、また控訴人の事業が右年度前後において取扱商品営業形態、得意先につき変化があつたことを認めうる資料がないからその受取手形にも格別の変化は認め難く、したがつて、前記債務割合の推移によつて本件両建預金の担保性の有無を判断することに、なんら所論のような不当性はない。」を加える。

2、同一九枚目裏八行目冒頭「証」の次に「、当審での証人仲敏夫の証言」を加える。

3、同二一枚目裏五行目「できない。」の次に「さらに、控訴人は銀行の決算期末および月末等に両建分借入金、両建預金が集中して発生していることを根拠に、それが銀行のしつような勧誘によるものであると主張するが、原審ならびに当審での証人仲敏夫の証言によると、当時銀行が預金獲得競争の結果顧客たる控訴人に対し両建取引を勧誘したことは認めうるけれども、それが勧誘の域を超えて強制にわたるものであつたことを肯認するに足りる的確な証拠はなく、かえつて控訴人が利子分離課税制度を利用して租税を回避する意図を有していたことは前認定のとおりである。(控訴人が、毎年一二月末の決算期到来前においては、回避税額を確知できないことから、直ちに控訴人の右租税回避の意図を否定できるものではない)」を加える。

四、以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤平伍 裁判官 仲西二郎 裁判官 惣脇春雄)

別表一〇(1) 34年

〈省略〉

別表一〇(2) 35年

〈省略〉

別表一〇(3)36年

〈省略〉

別表一一 34年

〈省略〉

35年

〈省略〉

36年

〈省略〉

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